このPCエンジンという機種には、特別な思いがある。
ゲームの持つパワーというかオーラというか。そして、子供って残酷で現金だなと。
そんな思いを抱くに至るわけをお話ししましょう。
当時、私は中学2年。
とても仲の良い、S君という友達がおりました。
S君とはお互いの趣味、笑いのツボ、かなり似通ったところがあり、休み時間や、時には授業中にもペチャクチャペチャクチャ話しておりました。
S君は、成績もまぁまぁで人当りもよく、とくにこれといった欠点のある子ではありませんでした。
ところがある日、クラスメイトの1人が、とある言葉を吐きました。
「Sって臭くね?」
その日からS君は、クラス中に総スカンをくらいました。
なんと残酷なことでしょう。
ただ幸いだったのは、S君と仲良くしている人間にまで危害を及ぼすことはない奴らであったことです。
私や、もう数人の仲間は、それでもS君と切れることはありませんでした。
秋口ごろ、ファミマガだかファミコン通信(現:ファミ通)だかワンパックだかマルカツだかハイスコア(は廃刊済みだったかな・・)だか、とにかく、どの雑誌か忘れましたが、昼休みに仲間数人で見ておりました。
PCエンジンの記事です。
「この志村の顔!めちゃめちゃリアルだがん!」
「すげーな!キャラもデカいな!」
折しもファミコン全盛の頃、PCエンジンの画面写真にはド肝を抜かれました。価格にも。
S君をシカトしていたクラスメイトの中にも、もちろんゲーム好きは居ます。
その子らの間でも、THE功夫やカトケンは注目の的でした。
ただ、価格の点もそうなのですが、なにせ中学2年の2学期。大事な時期でもあります。
おいそれと、買ってもらえそうな子はいませんでした。
私はと申しますと、とくに良い高校を狙っているわけでもなく、親も理解はあるほう。
ですが、姉が結婚を控えており、さすがに金の余裕もなかろうと思っていましたので、とりあえずPCエンジンは見送るつもりでした。
頃は11月中旬、なんとS君がいち早くPCエンジンを購入!
私ともう数人の仲間は、早速放課後S君宅へ突撃しました。
ビックリマンワールド、THE功夫、2つのゲームを遊び倒した私たちは、次の日からその話題ばかり。
そして数週間後、S君から、今度はついにカトケンを買ったとの報告が!
それに耐えきれなくなったのか、S君のことを「臭くね?」と言い放った張本人が、「お、俺も入れてくれない・・・?」と言い出しました。
S君は、特にそいつを責めるでもなく、「別にいいよ。うちの場所知ってる?」と切り返しました。
果たして、その日はS君宅で、そいつも含めてカトケン三昧。
翌日から、なんとなくそいつも遠慮がちながら仲間入りしました。
そして徐々にS君を取り巻くクラスの雰囲気も柔らかくなり、3学期にはすっかりS君は人気者・・・とまでは行かないまでも、皆と馴染みました。
私は、自分の力の無さを痛感すると共に、ゲームというものの持つパワーを、しみじみと思い知るに至ったわけです。